介護・医療の記録にAI文字起こしを使う前に決める4つ
カンファレンス、申し送り、面談。記録の負担が重い現場ほどAIは効きますが、扱う情報の性質が他の業種と違います。先に決めておくべき4点と、決めずに始めたときに起きることを書きました。

記録の負担が重い現場ほど、文字起こしの効き目は大きくなります。サービス担当者会議、申し送り、ご家族との面談、カンファレンス。どれも話した内容がそのまま記録になる場面です。ただし、この分野は扱う情報の性質が他の業種と違います。始める前に決めておくことが4つあります。順番にも意味があって、1つ目で止まることがあります。
この記事の内容(18項目)
1. その情報を外へ出せるか
いちばん先に来る判断です。利用者・患者の氏名、病歴、障害の状況が会話に出ます。病歴などは個人情報保護法で「要配慮個人情報」として定義されており、取得に本人の同意を必要とするなどの規律が置かれています。詳細は個人情報保護委員会が公開している資料に当たってください。自事業所で使ってよいかは、法令だけでなく、事業所の規程・自治体の指導・法人の方針で決まります。ここは管理者の判断事項で、現場が個別に決める話ではありません。判断に迷う場合は顧問の弁護士や社会保険労務士へ。外へ出せないと決まった場合は、端末の中だけで処理する方法に限られます。選択肢と限界はオフラインで文字起こしと議事録はできるかにまとめました。
この判断は、一度決めたら終わりではありません。利用する外部サービスが増えたり、契約内容が変わったりするたびに見直しが要ります。判断した日付と、判断した人を記録に残しておくと、あとから「いつの判断か」を追えます。
2. 誰の同意をどう取るか
会議の録音には、その場にいる全員の声が入ります。職員だけの会議と、ご家族や利用者が参加する会議では、扱いが変わります。ご家族が参加する面談で録音する場合、口頭で伝えるだけにするか、書面に残すかを決めておいてください。その場で説明する言い方は例文にしてあります(告知文と同意書)。
3. 出てきた文章を、どの様式へ写すか
ここを決めないまま始めると、二度手間になります。介護の記録は様式が決まっています。サービス担当者会議なら第4表、ケアプランなら第1〜3表。AIが出すのは会議の要約であって、様式そのものではありません。現実的な使い方は、次の2段です。
- 会議の音声から要約と発言の抜粋を作る
- それを見ながら、決まった様式の各欄を埋める
この順にすると、AIの出力をそのまま提出物にはしない、と決めておくと事故になりません(第4表の埋め方)。
4. 固有名詞をどう扱うか
医療・介護の会話には、AIがまず間違える語が集中します。種類ごとに、どう化けるかを表にします。
| 種類 | 例 |
|---|---|
| 薬剤名 | 似た音の別の薬に化ける |
| 疾患名・略語 | ADL、IADL、BPSD などの略語 |
| 事業所名・施設名 | 一般名詞に変換される |
| 利用者の氏名 | 同音の別表記になる |
薬剤名の誤りは特に危険です。記録として残ったものが後から参照される性質上、間違いに気づくのは何か月も先になります。対策は2つあります。よく出る語を辞書に登録しておくこと。そして、薬剤名と数値だけは必ず人が目で確かめると決めておくことです。
この表は代表的な例で、実際に化ける語は事業所が扱う分野によって変わります。自分の事業所でよく出る語を、実際に一度AIに起こさせて確認しておくと、辞書に登録すべき語が具体的に分かります。
介護と医療で、記録の性質はどう違うか
この記事で条文をもとに書けるのは介護保険の分野だけです。タイトルには医療も含めていますが、医療の記録(診療録や看護記録など)は医療機関ごとに書式と運用が定められていることが多く、本記事はそこまで踏み込みません。医療の現場で使う場合は、自施設の規程と、必要なら顧問の弁護士にご確認ください。以下は介護保険の分野の話として読んでください。
誰が読むかで、記録の重さが決まります。そのうえで、両者に共通する性質はこの点です。同じ職種の中だけで読む記録は、専門用語を省略しても伝わります。他の職種や、あとから来る担当者が読む記録は、背景まで書かないと伝わりません。記録に時間がかかると感じるとき、たいていはこの「誰が読むか」を意識せずに書いているのが原因です。
もう1つの共通点は「あとから参照される」ことです。記録は「その場限りのメモ」ではありません。利用者・患者の状態は日々変わるので、過去の記録と見比べて変化を追う場面が必ず出てきます。1回ごとの記録を軽くすることと、あとから追いやすくすることは、ときに両立しません。軽くしすぎると、あとで見返したときに何も分からない記録になります。どこまで削ってよいかは、この記事の後半の「記録を軽くする順番」で扱います。
様式が決まっているものと自由なもの
様式が決まった記録と、自由な記録が両方あります。介護の記録には、サービス担当者会議なら第4表、ケアプランなら第1〜3表のように、欄そのものが決められている記録がある一方、申し送りのメモのように書き方が事業所に委ねられている記録もあります。
様式が決まった記録は、同じ形で拾えることが目的です。欄が決まっているので、書く側は埋める材料さえ揃っていれば迷いません。一方、自由な記録は、そのときの状況をなるべく取りこぼさずに残すことを目的にしています。型がないぶん、書く側の裁量が大きくなります。
| 様式が決まっている記録 | 自由な記録 | |
|---|---|---|
| 例 | サービス担当者会議の第4表、ケアプランの第1〜3表 | 申し送りのメモ、日々の経過記録 |
| 目的 | 誰が読んでも同じ形で内容を拾える | その場の状況を取りこぼさず残す |
| AIとの相性 | 要約を見ながら欄を埋める作業が残る | 出力をそのまま使うか、整えるかを決める |
AIの出力は、どちらの記録にもそのままは収まりません。AIが返すのは会議やケアプランの要約であって、様式そのものではありません。様式が決まっている記録では、要約を見ながら決まった欄へ書き写す作業が残ります。自由な記録では、出てきた文章をそのまま使うか、事業所の書式に合わせて整えるかを決めておく必要があります。様式が決まっている記録ほど、AIの出力とのズレに気づきにくいので注意してください。欄はすべて埋まっているので、一見すると完成した記録に見えます。ところが中身が「AIの要約をそのまま書き写しただけ」だと、本来その欄に必要な検討の跡が抜け落ちていることがあります。サービス担当者会議の第4表の埋め方は、第4表の埋め方に記入例まで載せました。
要配慮個人情報としての扱い
利用者・患者の氏名、病歴、障害の状況は、会話の中に必ず出てきます。病歴などは個人情報保護法で「要配慮個人情報」として定義されており、取得に本人の同意を必要とするなどの規律が置かれています。
録音した音声も、識別できれば個人情報です。個人情報保護委員会は、通話の録音について「通話内容から特定の個人を識別することが可能な場合には個人情報に該当します」としています。識別できない録音は基本的には個人情報に該当しないとしつつ、「その他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別することができれば、その情報とあわせて全体として個人情報に該当することはあります」とも述べています。利用者名簿と突き合わせられる会議の録音は、この「容易に照合できる」に近づきます。介護・医療の記録は、参加者が限られた小さな集まりであることが多く、声だけでも誰の発言か分かってしまう場面が普通にあります。
要配慮個人情報は、あとの扱いにも影響します。取得の場面だけでなく、誰が読めるか、どこに置くか、いつまで残すかも、通常の記録より慎重に扱う理由になります。次の「共有の範囲」で具体的に見ていきます。
個別の判断は、この一次情報だけでは決まりません。事業所の規程・自治体の指導・法人の方針と照らし合わせたうえで、管理者、必要なら顧問の弁護士や社会保険労務士にご確認ください。判断の記録も、この記事で繰り返した「誰が・いつ決めたか」を残す考え方と同じです。
共有の範囲
記録ができたあと、誰が見られる状態にするかを、保管する前に決めておく必要があります。決めることは3つです。
| 決めること | 目安 |
|---|---|
| どこに置くか | 共有フォルダか、職員個人の端末か。権限を確認する |
| 誰が見られるか | 直接かかわる職員の範囲か、事業所全体か |
| いつまで残すか | 目的が済んだら消す。決めないと残り続ける |
介護・医療の記録は、共有の範囲が広がりがちです。複数の職種が関わるほどそうなります。サービス担当者会議のように、事業所をまたいで情報を共有すること自体が目的の記録もあれば、申し送りのように同じ職場内で完結すべき記録もあります。目的が違う記録を同じ場所にまとめて置くと、権限をまとめて広げたときに一緒に見えてしまいます。置き場所を記録の性質で分けておくほうが安全です。
送り先がどう保管するかまでは決められません。事業所をまたぐ共有では、渡す前に、渡す範囲を絞れないか検討してください。会議の全文ではなく、その事業所に関係する項目だけを渡す、といった工夫です。介護・医療の記録は、渡した相手の管理下でも同じ水準の慎重さで扱われるとは限りません。
部署をまたぐ共有は一段階慎重に。同じ事業所の中でも、送迎や事務を担当する職員まで含めた全体共有が必要な情報と、直接ケアに当たる職員だけで足りる情報は分けられます。全員に同じ権限を与えるのではなく、業務上必要な範囲だけに絞るほうが、記録の性質に合っています。
外部のサービスへ音声を出すとき、事業所として決めること
AI文字起こしを使うということは、利用者・患者の会話を、外部の事業者のサーバーへ送るということです。ここを事業所としてどう扱うかは、個人情報保護委員会の考え方が手がかりになります。
クラウドサービスへ預けること自体は、個人情報保護委員会の整理では、提供にあたらない場合があります。「当該個人データを取り扱わないこととなっている場合には、当該個人情報取扱事業者は個人データを提供したことにはならないため、「本人の同意」を得る必要はありません」としています。ただし条件付きです。「契約条項によって当該外部事業者がサーバに保存された個人データを取り扱わない旨が定められており、適切にアクセス制御を行っている場合等」と書かれています。「クラウドだから同意は要らない」ではありません。契約とアクセス制御が前提です。
事業所として確認するのは、次の3点です。
- 契約条項に、音声を取り扱わない旨が明記されているか
- アクセス制御が適切に行われているか
- 学習に使われるか、どこの国で処理されるか、いつまで保管されるか
Recoryを例に、実際の記載を書きます。音声は既定で14日後に自動的に消えます(設定で7日への短縮、契約しているプランの上限までの延長も可能です。上限はライト・お試し・週プランが90日、スタンダードが180日、Proが365日)。会議の内容は生成AIの学習に使われない条件で各社と契約しています。ただし、利用者の音声が外部の事業者へ送られること自体は避けられません。ここは便利さと引き換えにできない前提で、事業所の判断が先に来ます。
契約書を確認するだけでは終わりません。現場でAIを使う職員が、この3点を知っているかどうかも同じくらい大事です。契約が適切でも、使う側が「録音していることを利用者に伝えなくてよい」と誤解していれば、結局トラブルになります。導入するときは、契約の確認とあわせて、使う職員への説明も1セットにしてください。
録音した音声は、目的が済んだら残す理由がなくなります。文字起こしと記録ができたあとまで音声を保管し続けるほど、万一の漏えい時の影響は大きくなります。必要な期間だけ残し、済んだら消す運用を先に決めておいてください。
記録を軽くする順番
記憶が薄れてから書くと、1件が重くなります。第4表に限らず、介護・医療の記録が重くなる原因は共通しています。効く順に並べます。
- 型を先に決める。毎回ゼロから書式を考えず、決まった型に流し込む
- その日のうちに、要点だけ埋める。肉付けはあとからでもできますが、要点は記憶が新しいうちに
- よく出る語を辞書に登録する。薬剤名・事業所名・利用者名は毎回同じように間違うので、一度直せば以後は減ります
- 前回の記録を土台にする。新規で書くより、差分を足すほうが速く終わります
- 書く前に、誰が読むかを1人思い浮かべる。次の勤務者なのか、他の職種の担当者なのか。読み手が決まると、書く分量も自然に決まります
2番目がいちばん効きます。会議や面談が終わった直後の数分で、決まったことと残った課題だけを書き留めておく。肉付けをあとに回しても、要点さえ押さえてあれば記憶を頼らずに済みます。
第4表を軸にした、もう少し具体的な型は第4表の埋め方にまとめてあります。会議中に手が回らないときの応急処置は議事録のメモが追いつかないときにあります。
効き目がいちばん大きいのは、申し送り
導入するなら、まず申し送りから試すのが現実的です。理由は3つあります。
- 短い。5〜15分なので、確認の負担が小さい
- 毎日ある。効果が積み上がる
- 参加者が職員だけ。同意の話が単純になる
ここでうまくいってから、会議や面談へ広げるほうが、途中で止まりにくくなります。
申し送りを、AIを使って書くとどう変わるか(想定例)
具体的にイメージできるよう、申し送りを例に、AIを使う前と後でどう変わるかを見ておきます。あくまで想定した例で、実在のやり取りではありません。
AIを使わない場合の一般的な流れ
- 口頭で申し送りを受ける、あるいはメモを見ながら聞く
- 自分でノートやシステムに要点を打ち込む
- 次の勤務者が、そのノートを読む
AIを使う場合に変わるところ
- 申し送りの音声を録音する
- AIが文字起こしと要約を作る
- 要約を確認し、必要なら直してから記録に残す
変わるのは2番目の工程だけです。録音するかどうか、最終的に何を記録として残すかという判断は、AIを使っても使わなくても変わりません。AIが担うのは「聞いた内容を要点にまとめる」という、いちばん時間のかかる作業の下書きだけです。確認と最終判断は、これまでどおり人が行います。
導入する前に、小さく試す
いきなり全部の記録をAIに置き換える必要はありません。範囲を絞って試してから広げるほうが、途中で行き詰まりにくくなります。
試す範囲を選ぶときの目安は、この記事で何度か出てきた基準と同じです。参加者が少なく、外部と共有しない記録から始めてください。申し送りが向いているのは、まさにこの条件に当てはまるからです。
試す期間を決めておくことも効きます。「2週間だけ試して、そのあと続けるかどうかを判断する」のように区切ると、なんとなく始めてなんとなく続く、という状態を避けられます。期間の終わりに、記録にかかる時間が実際に減ったか、確認の手間がどれだけ増えたかを振り返ってください。
記録を短くしすぎたときに起きること
「記録を軽くする」と聞くと、短くすることだと考えがちです。しかし短くしすぎると、別の問題が起きます。
あとから記録を読んだ人が、「何を検討して、なぜその結論になったか」を追えなくなることです。結論だけを書いて経緯を省くと、同じ状況が再び起きたときに、過去の記録を参考にできません。とくに状態が変化しやすい利用者・患者ほど、経緯の記録が次の判断の材料になります。
軽くすることと、経緯を残すことは、優先順位が違うだけで対立しません。この記事で挙げた「型を先に決める」「その日のうちに要点だけ埋める」は、書く時間を削る工夫であって、残す情報を削る工夫ではありません。削ってよいのは言い回しや体裁であって、判断の根拠ではないと意識しておくと、軽くしすぎる失敗を避けられます。
記録の直し方——間違いに気づいたとき
AIが作った記録にも、あとから間違いに気づくことがあります。直すときは、通常の記録と同じように扱うのが安全です。
元の記録を消して書き直すのではなく、訂正した跡が分かる形にしておいてください。いつ・誰が・どこを・なぜ直したかが分かれば、あとから記録を読む人が経緯を追えます。AIの出力をそのまま確定させず、必ず人が確認してから記録に残す——この記事で繰り返した原則が、訂正の場面でも土台になります。
間違いに気づく経路は2つあります。書いた本人が読み返して気づく場合と、あとから別の職員が読んで気づく場合です。後者のほうが発見が遅れがちなので、複数の目で確認する仕組みがあるほど、間違いが記録として固定される前に止められます。
AIが関わったかどうかで、訂正の考え方を変える必要はありません。AIが下書きを作った記録でも、人が手で書いた記録でも、あとから間違いが見つかったときの扱いは同じです。「AIが間違えたのだから仕方ない」で済ませず、通常の訂正の手順に乗せてください。
この記事で書いていないこと
自事業所で使ってよいかどうかの結論は書けません。事業所の規程・自治体の指導・法人の方針で変わるためです。判断は管理者と、必要なら専門家へ。技術面で確かめる項目——どこへ送られ、学習に使われるか、どこに保管されるか——はAI議事録から情報が漏れる経路は4つにまとめてあります。ここは自分で確かめられます。
この記事を通して伝えたいことは1つです。AIは記録を書く時間を削れますが、何を記録するか・誰に見せるか・いつまで残すかという判断は、最後まで事業所と管理者の手に残ります。ここを曖昧にしたまま導入すると、便利さと引き換えに、説明責任を持てない記録ができあがります。
様式へ写す前の材料をどう作るかは議事録の書き方とテンプレートに、端末で録る方法は録音の仕方にあります。
よくある質問
介護や医療の記録にAI文字起こしを使ってよいですか
利用者・患者の情報を外部のサービスへ送ることになるため、事業所としての判断が要ります。病歴などは個人情報保護法で「要配慮個人情報」として定義され、取得に本人の同意を必要とするなどの規律が置かれています。自事業所での可否は管理者、または顧問の弁護士・社会保険労務士にご確認ください。
サービス担当者会議の記録にも使えますか
会議の音声から第4表の各欄を埋める形なら使えます。ただし記録の様式は自治体や事業所で決まっているため、AIが出す形をそのまま提出するのではなく、決まった様式へ書き写す前提で使ってください。
音声を外に出せない事業所ではどうすればいいですか
端末の中だけで処理する方法に限られます。iOS標準のボイスメモの文字起こしなどが候補ですが、要約や記録の様式への整形まで端末内で完結するものは選択肢が少ないのが実情です。
サービス担当者会議の記録(第4表)を、会議の後回しにしない
AI議事録から情報が漏れる経路は4つ——順に塞ぐ
オフラインで文字起こしと議事録はできるか