iPhoneのボイスメモで文字起こしすると、誰の発言か分からなくなる理由
iOS標準のボイスメモは話者を分けません。仕様として分けられない理由と、会議やインタビューで「誰が言ったか」を残すための現実的な方法をまとめます。

会議やインタビューをiPhoneのボイスメモで録って、あとから文字起こしを開いたときに、こう思ったことがあるはずです。
これ、どっちが喋ったんだ。3人で1時間話した記録が、改行のない一続きのテキストになっている。読み返しても、質問したのが自分なのか相手なのか分からない。結局、音声を頭から聞き直すことになる。
これは設定で直せる不具合ではなく、標準のボイスメモが最初からそういう作りだからです。この記事では、なぜそうなっているのかと、実務でどうするかを書きます。
標準のボイスメモは「話者分離」をしない
まず事実の確認から。2026年8月時点で、ボイスメモの文字起こしには、次の3つがありません。
| ないもの | どういうことか |
|---|---|
| 話者分離 | 「話者A」「話者B」のような区切りが付かない。全部が一続きの文になる |
| 要約・議事録化 | 決まったこと、宿題、担当者を抜き出す機能はない |
| 固有名詞の学習 | 社名や商品名を登録して覚えさせることができない |
使える条件も限られています。文字起こしが動くのは iPhone 12以降(iOS 26でも変わっていません)で、対応言語には日本語が入っています(Appleの注記)。
ここに罠があります。iOS 26はiPhone 11とiPhone SE(第2世代)でも動きます。この2機種は最新のiOSに上げられるのに、文字起こしのボタンだけ出ません。「OSは最新にしたのに使えない」の正体は、たいていこれです。
つまりボイスメモの文字起こしは、「自分ひとりのメモを、あとで文字で探せるようにする」ための機能です。複数人の会議を記録するために作られていません。この用途のずれが、使ってみたときの「思っていたのと違う」の正体です。
ひとつ、正確に書いておくべきことがあります。同じiOSでも、電話アプリで録音した通話の文字起こしは話者を分けます。Appleは「文字起こしでは、それぞれの文の話者が識別されます」と明記しています。つまり、Appleは話者を分ける技術を持っていて、ボイスメモには載せていないというのが正確な現状です。
なぜ分けられないのか
話者分離(ダイアライゼーション)は、音声認識とは別の処理です。声の高さ、話す速さ、声道の特徴といった声紋に近い情報を手がかりに、「いま喋っているのはさっきと同じ人か」を音声全体を見渡して判断します。
ここが重要なところで、この判断は録音を最後まで聞き終えないと確定できません。冒頭の30秒だけでは「この声は何人目か」が決まらないからです。一方、標準のボイスメモは端末の中だけで、しかもリアルタイムに近い形で文字を出しています。バッテリーと発熱の制約があるスマートフォンで、全体を見渡す重い処理を走らせるのは割に合いません。
Appleは理由を公開していないので、ここから先は推測になります。ただ、電話の文字起こしでは話者が分かれることを考えると、「端末の中だから無理」ではなさそうです。電話は自分の声と相手の声が別々の音として届くのに対し、対面の会議は1本のマイクに全員の声が混ざって入ってくる。同じ「話者分離」でも、難しさがまったく違います。
だから「設定のどこかにスイッチがある」わけではありません。探しても見つからないのは、無いからです。
それでも精度を上げたいときに効くこと
話者は分けられないとしても、文字起こしそのものの精度は録り方でかなり変わります。実際に効くのは、機材ではなく置き方です。
- 話し手の真ん中に置く。端に置くと、遠い人の声が小さくなり、そこだけ誤変換が増えます
- 机に直置きしない。ノートやハンカチを1枚挟むだけで、机を叩く音やペンの音の混入が減ります
- 送風から離す。エアコンの吹き出し口、プロジェクターのファン、ノートPCの排気は、人の耳では気にならなくても認識には効きます
- かぶせて話さない。2人が同時に喋った区間は、どんなツールでもほぼ復元できません。司会役がいる会議ほど文字起こしはきれいになります
逆に、やっても効果が薄いことも書いておきます。高いマイクを足す、録音の音質設定を上げる、静かな部屋を探す。これらは「そもそも声が入っていない」ときには効きますが、すでに聞き取れている音声の誤変換を直す効果はほとんどありません。誤変換の多くは音の問題ではなく、「その単語を知らない」ことが原因だからです。
「誰が言ったか」が要るなら、外に出すしかない
ここまでが標準機能の話です。会議の記録として使うなら、話者が分かれていないテキストは実用になりません。「Aさんが持ち帰る」と書いてあっても、Aさんが誰か分からなければ宿題になりません。選択肢は3つあります。
1. 録音したファイルを、話者分離できるサービスに渡す
ボイスメモで録ったm4aを書き出して、対応サービスに上げる方法です。今ある録音をそのまま使えるのが利点。手間は毎回かかります。
2. 録音の段階から対応アプリで録る
最初から話者分離込みで処理するアプリで録音します。書き出しの往復が要らない代わりに、アプリを変える必要があります。
3. 人を分けて録る
参加者ごとに端末を置く、あるいは発言前に名前を言うルールにする。道具は要りませんが、会議の運用を変えることになるので、社外の打ち合わせでは現実的ではありません。
話者分離にも限界があることは、先に知っておいた方がいい
話者分離は万能ではありません。実際に測った範囲では、次のときに崩れます。
- 声質が似ている人が複数いるとき。同性で年齢が近い3人以上の会議は、2人に畳まれることがあります
- 一人が短く相槌だけ打つとき。「はい」「なるほど」だけの人は、独立した話者として立ちません
- 途中から入室した人がいるとき。前半に声が無い人は、別人として数えられないことがあります
Recoryでも、申告5人の会議が3人にまとまった録音がありました。音声認識のモデルを替えても、音質を上げても、その録音は3人のままでした。別系統のモデルに通して初めて5人に分かれます。だから「話者分離対応」と書いてあれば必ず正しく分かれる、とは考えないでください。
大事なのは、間違ったときに直せるかです。話者ラベルをあとから実名に一括変換できるか、まとまってしまった話者を分け直せるか。ここを見て選ぶと失敗が減ります。
Appleが話者分離を載せたら、この記事はどうなるか
先に書いておきます。載る可能性は十分あります。というより、電話の文字起こしには既に載っています。
iOS 18.1で通話録音と要約が標準に入り、18.4で日本語の文字起こしが来て、通話の文字起こしでは話者が分かれるようになった。あとはボイスメモに来るかどうかだけです。Google Meetも2026年に対面会議への対応を追加していて、標準側が「できないこと」を埋めるペースは速いです。そのとき、この記事の前半(「ボイスメモには話者分離が無い」)は無効になります。
でも、後半は無効になりません。
上に書いたとおり、1本のマイクで拾った音から話者を分けるのは、誰がやっても同じ難しさです。Appleが載せても、声の似た3人は畳まれるし、相槌だけの人は立たない。物理が変わるわけではないからです。だから、載ったあとに残る問いはこれです。
外れたときに、打ち直せるか。
標準機能の弱点は、たいていここにあります。1回処理して終わりで、結果が気に入らなくても別のやり方を試す入り口が無い。無料で付いてくるものにそれを求めるのは酷なので、これは批判ではなく性質です。
この記事を読んでいる時点でAppleが載せていたなら、上の表は読み飛ばして、話者分離が外れたときの対処のほうを読んでください。そちらは載っても載らなくても同じことが書いてあります。
Recoryではどうしているか
Recoryは、iPhoneで録った会議を文字起こしして議事録まで作るアプリです。この記事のテーマについては、こうしています。
- 文字起こしは話者ラベル付きで出します。話者名をタップすると、全発言に一括で実名が入ります
- 話者がまとまってしまったときのために、話者の語に強いエンジンの本文へ、話者に強いエンジンの話者を貼り直す機能があります(スタンダードプラン以上)
- 起こし直したあとでなければ話者に名前を付けられないようにしています。まとまったまま名前を付けると、別の人の発言までその人のものとして記録に残るからです。不便ですが、あえて止めています
- 参加者の会社名・役職を登録しておくと、次回から「話者A」ではなく実名で議事録が出ます
できないことも書いておきます。Recoryは通話そのものを録音できません。iOSがサードパーティのアプリに通話音声を渡さないためです。対面の会議か、スピーカーから流れている音が対象になります。
ただし、iPhone標準の電話アプリなら通話を録音できます(日本でも使えます)。録れたファイルは取り込めるので、電話の記録が目的ならそちらが早い。手順はiPhone標準の通話録音にまとめました。
この記事は2026年8月時点のiOSの挙動をもとに書いています。Appleの標準機能は更新で変わることがあるので、話者分離が将来足される可能性はあります。変わったらこの記事も直します。
よくある質問
iPhoneのボイスメモに話者分離はありますか
ありません。2026年8月時点のiOS標準のボイスメモは、音声を一続きのテキストにするだけで、発言者ごとの区切りを付けません。話者を分けるには、話者分離に対応した別のアプリかサービスを使う必要があります。
ボイスメモの文字起こしはどのiPhoneで使えますか
iOS 18以降かつiPhone 12以降です。対応機種より前のiPhoneでは、録音はできても文字起こしのボタンが出ません。
文字起こしの精度が低いのですが、上げる方法はありますか
マイクを話し手の中央に置く、机の振動を拾わないよう柔らかいものの上に置く、エアコンやプロジェクターの送風から離す、の3つが効きます。ただし標準のボイスメモは端末の中だけで処理するため、上げられる精度に上限があります。固有名詞の誤変換や話者の区別は、この方法では解決しません。
長時間の会議をiPhoneで録って文字起こしするときに壊れるところ
対面の会議をAIで記録する。選択肢は増えたが、壁は同じ
Recoryにできないこと