議事録が苦手なのは、聞きながら書こうとしているからです
会議中に聞いて理解して要約して入力する。これは4つの作業の同時進行で、慣れの問題ではありません。書く量そのものを減らす手順と、それでも残る「人がやるべき部分」を分けて書きます。

議事録が苦手だという相談を受けるとき、たいてい返ってくる原因の説明はこうです。「要領が悪い」「集中力がない」「文章力がない」。
どれも違うと思います。会議中に議事録を取るという行為は、次の4つを同時にやることです。
- 相手の話を聞く
- 何の話をしているのか理解する
- 残すべき部分だけを選んで要約する
- それを入力する
このうちどれかに意識を向けると、別のどれかが止まります。要約を考えている間の10秒は、話が耳に入っていません。入力している間は、次の発言を聞き逃しています。慣れれば速くはなりますが、同時進行であること自体は消えません。だから「議事録が苦手」の正しい対処は、上手に書けるようになることではなく、同時にやる数を減らすことです。
苦手な人が損をしている構造
もう少し具体的に書きます。会議中に議事録を取っている人は、その会議でいちばん発言していません。
書くために聞き役に回るからです。そして書くことに手一杯なので、「いま決まったのは本当にそれでいいのか」を考える余裕がない。会議で最も判断力を使えない位置に、記録係が座っているわけです。
若手が議事録係になる慣習は、会議の内容を覚えるという意味では理にかなっています。ただ「議事録を取りながら議論にも参加しろ」と両方求めるのは、構造として無理があります。
なお、聞きながら書くことが特に負担になる人もいます。同時に複数のことを処理するのが苦手な特性は珍しいものではありません。それは能力の問題ではなく、向き不向きの話です。この記事の方法は、そういう人ほど効きます。
5W1Hは、会議中には要りません
議事録の書き方を調べると、ほぼ全部の記事が5W1Hを勧めます。いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように。会議中に、この6つを思い出しながら書ける人を見たことがありません。そして実際、会議中に要るのは3つだけです。
誰が・何を・いつまでに
残りの3つ(どこで・なぜ・どのように)は、録音か文字起こしに全部残っています。あとから拾えるものを、いちばん忙しい会議中に手で書く理由がありません。
同じ理由で、「準備で8割が決まる」もこの記事では採りません。事前にアジェンダを作るのは会議の進行として正しいのですが(別記事に書きました)、議事録が苦手な原因は準備不足ではないからです。原因は、次に書くとおり同時進行のほうです。
書く量を減らす3つの手順
手順1:会議中に書くのは3つだけにする
会議中に手で書くのは、次の3つに限定します。
| 書くもの | 例 |
|---|---|
| 決まったこと | 「単価は据え置き」 |
| 宿題と担当 | 「見積もりは先方が出す」 |
| 次の日程 | 「来週火曜に再確認」 |
これ以外は書きません。発言の流れ、背景の説明、雑談から出た情報。全部あとから復元できます(次の手順で書きます)。
この3つに絞る理由は、この3つだけは、あとから復元しにくいからです。「なんとなくそういう空気だった」は録音に残りません。決定の瞬間に手で押さえておく価値があるのは、ここだけです。
手順2:会議を録音する
流れや細部は、録音に任せます。人の記憶より正確で、しかも会議中の手が空きます。録音するときに一言添えるだけで、ほぼ問題になりません。
「記録を取りたいので、録音させてください」
断られることはめったにありません。詳しくは対面の会議を記録する方法に書きました。
手順3:あとで「読んで直す」形にする
ここが分かれ目です。録音を聞き直すのではなく、文字にしてから読みます。理由は、速度ではなく構造です。
音声は飛ばせません。1時間の録音を聞き直すには、最低でも1時間かかります。倍速にしても半分止まり、しかも聞き取りにくくなる。そして「さっきの箇所」に戻るたびに、探す時間が積み上がります。聞き直す方式は、会議時間より短くなることが原理的にありません。
文字は飛ばせます。目は行を飛ばし、見出しから拾い、知っている部分を読み流せる。同じ内容でも、探す作業が「巻き戻す」から「目を走らせる」に変わります。
私たちが実際の会議で測ったところ、1時間の文字起こしは約34,500字でした。これを全部丁寧に読む必要はありません。決定と宿題が書かれている箇所だけを拾うなら、探す作業そのものが別物になります。
同じ「あとでやる」でも、まったく別の作業です。「録音してあとでやる」がつらかった人は、たいてい聞き直す方式でやっています。
それでも人がやるべきこと
自動化を勧める記事ですが、全部を機械に渡せるとは書きません。実際に自分たちで使ってみて、人が見ないと必ず崩れるところがあります。
- 誰の宿題か。「じゃあこちらで出します」の「こちら」がどちらかは、文字だけでは決まりません
- 言っていないことの重み。渋られた、即答だった、という質感は記録に残りません
- 社外に出すときの言い回し。そのまま送れる文にするのは人の仕事です
だから目標は「議事録をゼロにする」ではなく、「白紙から書く」を「できているものを直す」に変えることです。この2つは心理的な負荷がまったく違います。白紙は苦しい。直すのは苦しくない。
会議のあと5分で終わらせる型
まとめると、こうなります。
- 会議前:録音を始める。何も入力しない
- 会議中:決定・宿題・日程の3つだけメモ。あとは議論に参加する
- 会議後:文字起こしから議事録を作る
- 5分だけ:担当者と言い回しを直して送る
Recoryは、この3と4のためのiPhoneアプリです。録音を止めると文字起こしと議事録ができ、決まったこと・未決のこと・宿題(担当者と期限つき)に分かれた形で出ます。苦手な人向けに効くところを挙げると、
- 会議前の入力が要りません。赤いボタンを押すだけで録音が始まります
- 画面を閉じても録り続けるので、録音中に手が空きます
- 議事録の一行ごとに [mm:ss] が付いていて、触れるとその瞬間の音声が流れます。「本当にそう言ったか」をその場で確認できます
- 直したいところは話し言葉で指示できます。「田中さんの担当になっているところ、先方の担当に直して」で通ります
- 参加者を登録しておけば「話者A」ではなく実名で出ます
正直に書いておくと、万能ではありません。声が似ている人が3人以上いる会議では話者がまとまることがありますし、iPhoneの通話そのものは録音できません(標準の通話録音は電話アプリの機能で、Recoryの外側です)。それでも「白紙から書く」よりは、はるかに軽い作業になります。同じ「議事録アプリ」でも録るだけのものから議事録まで作るものまで混ざっているので、段で分けた比較は議事録アプリの比較にまとめました。
議事録が苦手なのは、あなたの問題ではなく、やり方が同時進行を要求しているからです。順番を変えれば、たいてい解決します。
苦手の正体が「聞きながら書けない」ことなら、書く量そのものを減らすほうが早く効きます(議事録の書き方とテンプレート)。
よくある質問
議事録が苦手なのは慣れの問題ですか
慣れで改善する部分はありますが、それだけではありません。会議中の議事録は「聞く・理解する・要約する・入力する」を同時にこなす作業で、どれかに意識を向けると別のどれかが止まります。訓練で速くはなりますが、同時進行そのものの負荷は消えません。書く量を減らす方が確実です。
会議中にメモを取らないと失礼になりませんか
手を止めて聞く方が、相手にはよく伝わることが多いです。ただ何も持たずに座るのが不安なら、決まったこと・宿題・次の日程の3つだけを書く紙を用意してください。この3つ以外は、あとから復元できます。
録音してあとで書き起こす方法は、かえって時間がかかりませんか
音声を全部聞き直すやり方なら、確実に会議時間より長くかかります。音声は飛ばせないので、1時間の録音には最低1時間かかり、戻すたびに探す時間が乗るためです。時間が減るのは、文字起こしを先に用意して「読んで直す」形にしたときだけです。文字なら読み飛ばせます。
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