引き継ぎ資料に足りないのは、経緯
手順は書けても「なぜそうなったか」は書けません。前任者に聞くしかない状態を作らないために、過去の会議の記録をどう引き継ぎに使うかをまとめました。

引き継ぎ資料は、たいてい手順で埋まっています。誰に連絡するか、どのシステムを使うか、いつ何を提出するか。
これは書けます。困るのは、そこに書かれていないほうです。
後任が最初に詰まるのは経緯
- なぜこの条件で合意したのか
- なぜあの案を採らなかったのか
- この取引先の担当者は、何を気にする人なのか
- 前回、何をこちらから約束したのか
手順書には書かれません。書こうとすると量が膨大になるし、前任者にとっては「当たり前すぎて書くことだと思わない」情報だからです。
結果、後任は前任者に聞くしかない状態になります。異動して数か月は電話がかかってくる、という状況がここから生まれます。
経緯は、会議の中にある
判断の経緯は、資料ではなく会議で作られています。「この条件だと厳しい」「じゃあ納期を2週間ずらす代わりに、数量を増やしてもらう」——こういうやりとりが、そのまま合意の理由です。決まった結果だけを記録に残すと、この部分が消えます。だから、過去の会議の記録が残っていれば、経緯を渡せます。手順書に書き足す必要がありません。
全部渡すと読まれない
ただし、「過去2年分の議事録フォルダです」では引き継ぎになりません。後任は読みません。量が多すぎるからです。選んで渡してください。
| 何を | どれくらい |
|---|---|
| 案件ごとの直近の会議 | 2〜3本 |
| 方針が決まった回 | 案件につき1本 |
| 揉めた回、条件が変わった回 | あれば |
| 相手先の担当者が変わった回 | あれば |
「なぜそうなったか」が分かる回だけで足ります。定例の進捗報告は要りません。
引き継ぎの面談そのものを記録する
引き継ぎ期間が短い場合、これがいちばん効きます。前任者からの説明は、情報の密度が高く、速い。1回で全部覚えるのは無理です。それでも後任はメモを取ろうとして、聞くほうが落ちます(聞きながら書けない)。
引き継ぎの面談を録っておけば、その場では聞くことに集中できます。分からなかった語や前提は、あとで戻って確認できる。前任者が異動したあとに「あれ何と言っていたか」を思い出せる状態にしておくのは、後任にとっても前任者にとっても楽です。
探せる形で渡す
記録があっても、探せなければ無いのと同じです。後任は、その案件の言葉を知りません。「例の件」「A案」といった社内の呼び名で検索しても、そもそもその語を知らない状態から始まります(検索が効かない理由)。対策は2つ。
案件ごとにまとめておく。フォルダでも分類でも構いませんが、「この案件の会議はここ」という単位にしておく。質問できる形にしておく。「この取引先との過去のやりとりで、価格について合意したのはいつか」を記録に対して聞ければ、語を知らなくても辿れます(記録に質問する)。
渡す側が用意するもの
まとめると、引き継ぎで渡す価値があるのは次の4つです。
- 手順書。これは従来どおり
- 案件ごとの経緯が分かる会議の記録。選んで渡す
- 相手先の担当者の情報。役職、決裁権、気にする点
- 未決の宿題。自分の分と、相手先が持ち帰っている分の両方
4つめが抜けると、引き継いだ直後に案件が止まります。前任者が待っていた返事を、誰も追わなくなるからです。
そのまま使えるひな形
案件ごとに、この形で1枚ずつ作れば足ります。
案件名:
相手先:会社名 / 担当者(役職・決裁権の有無)
現在の状況:いま何が終わっていて、次に何が起きるか
これまでの経緯
いつ・何が決まったか。判断の理由も1行で
例:4/10 納期を2週間延長。代わりに数量を+20%で合意
未決の宿題
こちら:やること / 期限
相手先:やること / 期限(先方が持ち帰っているもの)
注意点
この相手先で気をつけること。過去に揉めた点
参考になる会議の記録
方針が決まった回、条件が変わった回へのリンク
「これまでの経緯」に判断の理由を1行入れるのが要点です。結果だけ書くと、後任が同じ判断をやり直します。
引き継ぎを前提にした残し方
いちばん確実なのは、引き継ぎのときだけ頑張らないことです。会議のたびに記録が残っていれば、引き継ぎの日にやることは「選んで渡す」だけになります。逆に、普段は記録していない組織では、引き継ぎの1週間で2年分を再現することになる。それは無理です。
引き継ぎの材料は、日々の会議の記録が形をそろえているほど作りやすくなります。決定事項と宿題が同じ場所に書いてあれば、抜き出すだけで済むからです(議事録の書き方とテンプレート)。
新しい担当として会議に入る側の話は会議についていけないにまとめました。
よくある質問
引き継ぎ資料に何を書けばいいですか
手順と、判断の経緯の2つです。手順は書けても経緯は書き落とされがちで、後任が最初に困るのはこちらです。なぜその条件で合意したのか、なぜその案を採らなかったのかを残してください。
引き継ぎで過去の会議記録を渡す意味はありますか
あります。手順書に書ききれない前提が入っているためです。ただし全部渡すと読まれないので、案件ごとに直近の数本と、方針が決まった回を選んで渡すほうが実用的です。
引き継ぎ期間が短い場合はどうすればいいですか
口頭での説明を、後任がその場で記録できる形にしてください。引き継ぎの面談そのものを録っておけば、聞き逃した部分に後から戻れます。1回で全部を覚える前提をやめるのが現実的です。
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