テープ起こしをAIで速くする——全部任せず、直す前提で使う
外注すると60分で1万2千円から。AIに任せれば数分で下書きが出ますが、そのまま納品できる品質にはなりません。素起こし・ケバ取り・整文のどこがAIで縮んで、どこが縮まないかを分けます。

テープ起こしを外注すると、60分で12,000〜18,000円あたりが相場です。1分200〜300円という計算が一般的で、文字数で見積もる業者なら1文字1円前後。ケバ取りと整文まで頼むと、60分で15,000〜20,000円くらいになります。
この記事の内容(18項目)
自分でやると、1時間の音声に4〜6時間かかると言われます。実感としても、だいたいそのくらいだと思います。
ここにAIを入れると、どこが縮んでどこが縮まないのか。工程ごとに分けて見ないと判断を誤ります。
工程は3つある
| 何をするか | AIで縮むか | |
|---|---|---|
| 素起こし | 聞こえたとおりに全部書く | 大きく縮む |
| ケバ取り | 「えー」「あのー」などを削る | 半分くらい |
| 整文 | 読める文章に整える | ほとんど縮まない |
料金が後ろへ行くほど上がるのは、手間が後ろほど重いからです。そしてAIが効くのは、いちばん軽い工程です。
「テープ起こし」という言葉について
「テープ起こし」と「文字起こし」は、ほぼ同じ意味で使われます。厳密には「テープ起こし」は外注する業務を指すことが多い言葉で、自分で聞いて打つ作業まで含めて広く指すときは「文字起こし」が使われます。
この呼び方は、いまや物理的なテープとは関係ありません。カセットテープで録音していた時代の名残で、外注の業界用語として残っています。録音の機材がICレコーダーやスマートフォンに変わったあとも、発注書や見積書には「テープ起こし」という言葉がそのまま使われ続けています。
いまも使われる場面は、納品の形式で見分けられます。発注のときに求められる納品の形式は、大きく3つに分かれます。
| 何を残すか | 求められる場面 | |
|---|---|---|
| 逐語録 | 言い淀み・フィラー・重複も全部 | 研究・学術、裁判関連、資格試験の記録 |
| 整文 | 読める文章に整える | 記事化が前提の取材、社内共有 |
| 要約 | 要点のみ | 議事録、報告 |
「テープ起こし」という言葉を使う発注ほど、逐語に近い納品を期待されていることが多いです。読みやすさより、発言そのものの正確な保存が優先される場面で、いまもこの言葉は生きています。
素起こしは、たしかに数分になる
ここは素直に効きます。1時間の音声を聞いて打つのに数時間かかっていたところが、数分で下書きが出ます。精度も、いまは日本語で90〜95%あたりまで来ています。
これだけで、全体の時間は確実に減ります。入れない理由はほぼ無いと思っています。ただし、そのまま納品できる品質にはなりません。理由は次の2つです。
固有名詞が落ちます。 人名、社名、専門用語。一般的な語はよく合いますが、ここは外れます。事前に登録できる仕組みがあるなら使ってください。取材のように事前に全部は分からない場合は、登録だけでは足りません。
聞き取れなかった箇所が、それらしい言葉で埋まります。 空欄にはなりません。人がやれば「(聞き取れず)」と書くところに、もっともらしい別の単語が入ります。これがいちばん厄介で、読んでも気づけません。
だから、音声に戻れるかが効く
上の2つがあるので、AIの出力を検算する工程が必ず要ります。このとき決定的に効くのが、テキストの各行に音声の時刻が紐づいているかです。
紐づいていれば、怪しい行だけをその場で聞き直せます。1時間の音源で確認が要るのは、たいてい10〜20か所。時刻があれば10分で済みます。
紐づいていないと、探すところからになります。頭から流して該当箇所を見つける作業は、素起こしを自分でやるのとあまり変わらない時間がかかる。ここで、せっかく縮めた時間を全部返すことになります。
道具を選ぶとき、精度より先にここを見てください。測り方は精度は3つあるに書きました。
機械が間違えやすいところ
AIの文字起こしが間違える場所は、だいたい決まっています。崩れ方には3つのパターンがあります。
- 固有名詞が別の語に化ける。社名・製品名・人名は、AIが知らなければ音の近い一般語になります
- 否定が消える。「やらないわけではない」が「やらない」になる。文としては自然なので気づけません
- 話者が入れ替わる。相槌の多い場面で起きます。聞き手の言葉が話し手の発言として記録されることがあります
2つ目がいちばん見つけにくい失敗です。文法的に破綻していないので、読み返しても違和感がありません。金額や日付のような数字の誤りは見ればすぐ分かりますが、否定の有無は文脈を知っている人にしか判断できないことがあります。
対策は、直す順番を決めておくことです。まず固有名詞をまとめて置換し、次に数字を音声で確認し、最後に文全体の意味が変わっていないかを読み通します。「意味が変わっていないか」の確認だけは、機械には任せられません。元の音声と突き合わせながら読む以外に、確実な方法がないためです。
3つとも、直す順番を後回しにするほど見つけにくくなります。固有名詞は一覧で拾えますが、否定の消失と話者の入れ替わりは、文脈を追いながら読まないと気づけません。時間が足りないときは、固有名詞と数字だけでも先に済ませておくと、あとの読み通しに集中できます。
ケバ取りは、半分だけ縮む
「えー」「あのー」「まあ」を削る作業です。機械的に削れる部分は、AIでも削れます。指示すれば消してくれる。ただし、残したほうがいいケバがあります。
「それは……まあ、難しいですね」
この「まあ」を消すと、含みが消えます。言いよどんだという事実が、記録の価値だったりする。取材や、あとで引用する可能性のある音源では、ここは判断の仕事です。
なので、一律に消させると事故ります。私は素起こしのまま出させて、消すのは手でやるほうが結局速いと思っています。判断しながら読むことになるので、検算も同時に済みます。
整文は、縮みません
ここはほぼ人の仕事のままです。整文は「読める文章にする」工程で、語順を直し、重複を削り、主語を補う。AIにやらせると、たしかに読みやすい文章は出てきます。問題は、読みやすくする過程で意味が動くことです。
話し言葉は、論理が飛びます。飛んだまま書くと読めないので、人は補って書く。その補い方に、書き手の解釈が入ります。AIも補いますが、AIの解釈が入っていることは、出てきた文章を読んでも分かりません。
取材原稿や、議事録として残すものだと、ここは効きます。「本人が言っていないことが、自然な日本語で書いてある」という形の間違いは、いちばん見つけにくい。だから整文まで任せるなら、元の発言と突き合わせる前提で使ってください。ここでも音声に戻れることが効きます。
自分でやる場合の手順
外注せず自分で起こす場合、行き当たりばったりにやると時間が読めません。効くのは、始める前の準備と、周回に分けることです。
先に辞書登録します。音声に出てくる社名・製品名・人名を、変換の辞書に入れておきます。参加者リストがあるなら、それを見ながら10分で済みます。ここをやるかやらないかで、打つ回数が目に見えて変わります。
再生速度を落とします。0.7〜0.8倍あたりが、打ちながら聞ける速さです。等速で打とうとすると止める回数が増えて、かえって時間がかかります。
15秒戻しを使います。聞き逃したときにスライダーを操作して探すのは時間の無駄です。ボタン1つで戻れる機能がある道具を選んでください。
2周に分けます。1周目は聞こえたとおりに打ち、分からない箇所は「◯◯」と置いて飛ばします。悩んで止まるのがいちばん時間を食うので、印を付けて先へ進んでください。2周目で、飛ばした箇所を埋めながら読める形に整えます。
15分ずつ区切ります。1時間を通しでやると集中が落ちて、後半の精度が下がります。区切って休むほうが、結果として速く終わります。
ここまでの手順を全部やって、冒頭に書いた4〜6時間に収まります。飛ばせる工程はありません。どれも時間を削るための工程です。
現実的な進め方
私が実際にやっている順番です。
- AIに素起こしさせる(数分)
- 固有名詞をまとめて直す(検索と置換で済む)
- 頭から読みながら、怪しい行だけ音声で確認(10〜20か所)
- 読みながらケバを取る(3と同時にやる)
- 整文は手で
3と4を分けないのが要点です。どうせ全部読むので、読みながら消したほうが1周で済みます。
これで1時間の音源が、4〜6時間から1〜2時間くらいになります。ゼロにはなりません。ゼロになると期待して見積もると、必ず溢れます。
頼むときに決めること——形式・納期・話者表記・秘密保持
外注するときは、発注前に4つを決めておくと、あとの手戻りが減ります。
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| 形式 | 素起こし・ケバ取り・整文のどこまで納品してほしいか |
| 納期 | 外注は数日かかるのが普通。急ぎなら先に伝える |
| 話者表記 | 氏名で書くか、話者A・話者Bのような記号で書くか |
| 秘密保持 | 社外に出せない内容が含まれるか |
形式を伝えないと、想定より整えられた原稿が返ってくることがあります。逐語に近い記録がほしいのに、読みやすさを優先して整文された状態で納品されると、言い淀みやフィラーが失われ、元の発言には戻れません。キャリアコンサルタントの資格試験の記録や、質的研究のインタビュー分析では逐語録が前提になっているため、ここを取り違えると納品後に全部やり直しになります。整文しない設定があるかどうかを、先に確認してください。
秘密保持は、外注できるかどうかの前提です。人が聞くということは、その人が内容を知るということです。守秘義務の契約を結ぶのが普通ですが、社外に出せない会議や取材なら、そもそも外注そのものができません。ここは形式や納期より先に確認する項目です。
AIの出力を、逐語録として納品すると起きること
上で触れた「形式」を、具体例で見ておきます。AIは既定で読みやすい方向に寄るので、逐語録を求めていても、フィラーが消えた状態で返ってくることがあります。
話した内容(素起こしの想定)
えっと、そうですね、まあ、結論から言うと、あの、今回は見送りということで。
AIがそのまま整えて返す例
結論から言うと、今回は見送りということです。
下の1行だけを見ると、きれいに整った原稿に見えます。ところが逐語録として提出すると、言い淀みや間が消えているため、発言のニュアンス——迷いながら結論を伝えていること——が失われます。研究や裁判関連の記録では、この「迷いながら」の部分自体が資料としての価値を持つことがあります。
対策は、発注時に「整えないでください」と明示することです。多くの文字起こしサービスには、フィラー除去を切り替える設定があります。既定でオンになっていることが多いので、逐語録が必要な案件では、この設定を先に確認してください。
納品された原稿を受け取ったら、まず確認すること
外注した原稿が届いたら、最初に3点だけ確認してください。全文を読み込む前に済ませられる確認です。
- 長さが合っているか。音源の長さに対して、明らかに短い原稿は、どこかが飛ばされている可能性があります
- 形式が指定どおりか。逐語録を頼んだのに整文されていないか、話者表記が指定どおりか
- 固有名詞のサンプルを数か所、音声と突き合わせる。冒頭・中盤・終盤から1か所ずつ選ぶと、全体の質が見えます
3つ目がとくに効きます。全文を細かく確認する時間はなくても、3か所を照合すれば、その原稿全体の精度がおおよそ分かります。ここで誤りが多ければ、修正を依頼するか、次回から別の依頼先を検討する判断材料になります。
内製化するか、外注を続けるか
依頼する頻度が増えてきたら、内製に切り替える判断も出てきます。判断の軸は、量と専門性の2つです。
月に数本程度で、内容が毎回違うなら、外注を続けるほうが合理的です。専用の体制を整えるコストのほうが高くつきます。週に何本も同じ種類の音声を扱うなら、内製に寄せる価値が出てきます。社内に文字起こしができる人を置く、あるいは自分でAIとテンプレートの運用を固定化するかたちです。
内製に切り替える場合も、この記事に書いた手順(辞書登録・2周に分ける・15分区切り)はそのまま使えます。外注で培った「どこまで整えるか」の基準を、そのまま内製の基準にできるのが、外注を経験してから切り替える利点です。
自分でやるか、外注するかの分かれ目
自分でやるか外注するかは、時間の使い方で判断が変わります。自分の時給が外注の実質的な負担より重いと感じるなら、外注したほうが総合的に安く済みます。逆に量が少なく急がないなら、上の手順で自分でやったほうが支出は抑えられます。
量が読めない段階では、まず自分でやってみることをすすめます。1本自分で起こしてみると、自分の音声がどの程度手間のかかる音質か、話者は何人か、専門用語がどれだけ出るかが分かります。その体感があると、外注の見積もりが高いのか妥当なのかを判断しやすくなります。逆に、量も相場も分かった状態で外注に切り替えるほうが、あとから「思っていたより高い」と感じることが減ります。
「テープ起こし」を頼む相手を決める
外注先には、大きく2つのタイプがあります。専門の書き起こし業者と、クラウドソーシングの個人です。
専門業者は、逐語録や整文など段階ごとの料金体系が整っていることが多く、秘密保持契約も業者側の標準の書式で結べます。まとまった量を継続して頼む場合や、秘密保持を書面で残したい場合に向きます。
クラウドソーシングの個人へ依頼する場合は、料金が業者より下がることがある一方、品質にばらつきが出ます。依頼するたびに、上に挙げた4項目(形式・納期・話者表記・秘密保持)を毎回明示しておかないと、人によって解釈が変わります。初めて頼む相手には、短い音声で試してから本番を頼むほうが安全です。
どちらを選ぶにしても、比べる基準は同じです。出てきた原稿を、自分で直すのにどれだけ時間がかかるかを、最初の1本で確かめてください。安い依頼先でも直す時間が長ければ、総時間では専門業者と変わらないことがあります。
音声の長さと、分量の目安
見積もりの桁を先に知っておくと、相場と照らし合わせやすくなります。外注の見積もりでは「1時間=1.4万〜2万字」という換算がよく使われますが、これは1人語りやインタビューを含む平均です。参加者が多く議論が速い会議は、その1.5〜2倍を見込んでください。
| 音声の長さ | 会議・打ち合わせの目安 |
|---|---|
| 30分 | 約1.2万〜1.7万字 |
| 60分 | 約2.5万〜3.5万字 |
| 2時間 | 約5万〜7万字 |
「テープ起こし」として外注する音声には、両方のタイプが混ざります。講演やインタビューのような1人語りに近い音声なら、業界でよく使われる換算に近い分量で収まります。複数人が発言し合う会議や座談会は、そこから1.5〜2倍を見ておくと、見積もりとの差に驚かずに済みます。
見積もりの単価を、実際の分量で確かめる
料金は「1分いくら」と「1文字いくら」の2通りで示されます。どちらで見積もっても、実際の金額はだいたい同じところに落ち着くはずです。確かめ方を書きます。
1時間の音声はおおよそ2.5万〜3.5万字になります(参考:1時間の会議は何文字になるか)。文字単価が1円前後なら単純計算で25,000〜35,000円になるはずですが、実際の相場は12,000〜18,000円です。この開きは、文字単価が「全部の文字」ではなく「整えたあとの文字数」に対してかかることが多いためだと考えられます。話し言葉には重複や言い直しが多く、整えると字数は目に見えて減ります。
見積もりを比べるときは、単価だけでなく「何に対する単価か」を先に確認してください。録音時間に対する単価なら、長い沈黙が多い音声でも金額は変わりません。文字数に対する単価なら、話す速さや沈黙の長さで最終的な金額が動きます。自分の音声がどちらのタイプに近いかで、有利な見積もり方式が変わります。
迷ったら、両方の見積もりを取ってください。同じ音声を分単価と文字単価の両方で見積もってもらい、安いほうを選ぶだけの単純な比較で構いません。見積もり依頼に数分かかるだけで、あとの金額差はそのまま積み重なります。とくに沈黙の多い音声(間を取って話す人が多い会議など)では、分単価のほうが有利になりやすいです。
無料でどこまでやれるか
素起こしだけなら、無料の選択肢で足ります。Whisperを自分の機械で動かせば無料・無制限で、精度も有料と同水準です。
ただし、時刻が紐づかない構成だと、上に書いた検算の工程が重くなります。そこを含めて考えると、無料が安いとは限りません。詳しくは文字起こしを無料でやる方法に書きました。
「Whisper」という名前には、2種類あることに注意してください。自分の機械で動かすほうは、音声が外に出ず、時間の制限もありません。一方でAPI版のWhisperは性質が逆で、音声はOpenAIへ送信され、1ファイル25MBという上限もあります。同じ名前でも、どちらを指しているかで扱いが変わります。
Recoryは各行に時刻が付くので、上の手順3が短くなります。ただし日本語の会議専用で、テープ起こしの業務用に作ったものではありません。外注の代わりになるかは、量によります。月に何本も受けているなら、専用のソフト(再生速度やフットスイッチに対応したもの)のほうが素起こし後の作業は速いはずです。
外注する場合の話が中心です。自分でやる場合も含めた3つのやり方は文字起こしとはに並べました。
取材原稿として仕上げる話は取材の文字起こしから原稿にするに、精度の見方はこちらにまとめました。
よくある質問
テープ起こしを外注するといくらかかりますか
60分の音声で12,000〜18,000円が相場です。1分あたり200〜300円という計算が一般的で、文字数で見積もる業者だと1文字1円前後になります。ケバ取りや整文まで含めると、60分で15,000〜20,000円あたりが目安です。
AIに任せればテープ起こしは要らなくなりますか
なりません。AIが縮めるのは素起こし(聞いて打つ工程)で、ここは確かに数時間が数分になります。ただしケバ取りと整文は判断の仕事なので、AIの出力を人が直す作業が残ります。全体では速くなりますが、ゼロにはなりません。
素起こし・ケバ取り・整文の違いは何ですか
素起こしは聞こえたとおりに全部書く方法です。ケバ取りは「えー」「あのー」などのフィラーを削ったもの。整文は読みやすい文章として整えたもので、語順を直したり重複を削ったりします。後ろへ行くほど手間がかかり、料金も上がります。
取材の音声を原稿にするまで、いちばん時間を食うのはどこか
「精度98%」は何の数字か —— AI議事録の精度は3つある
文字起こしを無料でやる方法と、無料で足りなくなる線